室蘭工大と極東工大の学生交流グループ
現在、日露青年交流センターでは、一般の方々からの交流事業の企画・提案を募集していますが、このプログラムは、そうした提案に基づき実施されたものです。
ロシアのウラジオストクは、港湾都市として発達し、造船業・漁業などの盛んな街です。一方、室蘭は鉄鋼業をはじめとした重化学工業の盛んな都市です。同じ緯度の下、共通点と相違点を比較しつつ、この2都市の学生達が共に過ごした日々について、室蘭工業大学国際交流センター国際企画係長の荒木正子さんからの報告です。
日本とロシアの工学系大学学生が相互訪問を通じて日露の地方都市、特色ある港湾都市で異文化を体験し、相手国への理解を深めようとするものです。また、2008年G8北海道洞爺湖サミットが室蘭近郊で開催されたことから、室蘭工業大学学生と極東工科大学学生が交流を通じ友好関係を深めると共にグローバルな問題である地球環境問題及びエネルギー問題について共通理解、共通目標を持つことにより、今後の省エネルギー推進に資することを目的としています。
大きな湖のそばという意味の白老ポロトコタンにあるアイヌ博物館を訪問し、北海道の先住民族であり、日本の少数民族である”アイヌ”の歴史とその生活について学びました。狩猟民族であるアイヌは、自然のものを神として大切にする民族です。門澤准教授から説明を受けながら、館内の展示物や屋外に再現されたアイヌの集落を見学し、自然の恵みで生活し、自然そのものを破壊するようなことをせず自然と共存するアイヌの生活ポリシーについて学びました。
この日は、9種類の温泉が湧出する登別温泉に宿泊。大浴場で温泉を堪能すると共に、浴衣を着て和室に布団を並べて寝るという初めての体験をしました。
2000年3月に噴火した有珠山西山火口付近を散策し、地殻変動により盛り上がった地面や地熱、噴煙など、噴火の驚異を間近で体感しました。訪問団は、未だに熱い地面に手を当てて火山が活きていることを確かめていました。火山科学館では、展示資料により、1977年噴火、2000年3月の噴火を中心に、定期的に噴火を繰り返す有珠山の火山活動を知ると共に噴火による被害と火山による自然の恵み双方の影響を受けて暮らす有珠山周辺地域の人々の火山との共生、地域の産学官の防災・減災の取組みについて知りました。
昭和新山が誕生していく過程を記録したミマツダイヤグラムで知られる壮瞥町郵便局長の三松正夫氏の後継者であり、三松正夫火山記念博物館館長の三松三朗氏に講師をお願いし、昭和新山の誕生、数回にわたる有珠山の噴火等の火山の歴史についてお聞きしました。三松氏は、「噴火を単に災害とせず、火山から学ぶ心」を次世代に伝えるボランティア活動(そうべつエコミュージアム会)をされており、今回もその活動の一環として講師を務めてくださいました。
訪問団は、三松氏と共に有珠山を散策しながら、故三松正夫氏の手描きの観測資料を含む、昭和初期からの今日までの貴重な資料を用いた説明により、実際に観測地点に立って現在の火山と資料の中の噴火前の火山を見比べることにより、いかに大きな地殻変動があったか、「大地は動いている」ことに驚いていました。
北海道で初めて開拓が行われた伊達市の開拓者である仙台藩の流れをくむ伊達家ゆかりの展示物から江戸時代の生活の様子を知りました。
17:00-17:20 黎明観(刀鍛冶工房見学)刀鍛冶工房で刀剣製作を見学しました。
5日目 10月27日(月)今日から室蘭工業大学学生も参加して、極東工科大学(FESTU)と室蘭工業大学(MuroranIT)、日露学生交流プログラムの開始です。
10:30-12:00 学生交流プログラム開会式及びプログラム説明プログラム担当者から全体説明の後、参加者は、歩きながら室蘭工業大学キャンパス及びその周辺のオリエンテーションを受けました。
服部城太郎氏を講師にお招きし、商社マンとして滞在・体験した、ソ連末期、ソ連崩壊、そしてロシア新時代へ至る激動の時代のビジネス体験談とモスクワを中心とするロシア欧州部と極東部の違いなどお話いただきました。
参加者:極東工科大学訪問団、室蘭工業大学教職員及び学生、交流プログラム関係者
室蘭工業大学・宮地理事、日露青年交流センター・川勝事務局長からご挨拶があり、プログラムに参加する日露学生各人が交流プログラム参加への抱負を述べました。
日本人学生は、プログラム参加者の他、機械システム工学科熱エネルギー工学研究室所属の学生全員がユニフォーム着用で極東工科大学学生を歓迎するため参加してくれました。皆ロシア人と会うのは初めてですが、すぐに仲良くなりました。
6日目 10月28日(火)「雪の貯蔵と利用」環境にやさしい自然エネルギーである利雪エネルギーについて機械システム工学科媚山教授から講義を受けました。媚山教授の雪冷房は、広く実用化されており、G8北海道洞爺湖サミットの国際プレスセンターにも採用されました。冷房のエネルギー源を石油から雪に代替することにより、石油の節約及び炭酸ガス抑制が可能となることから省エネルギーに貢献する技術です。講義の後、「雪の大実験室」でガスハイドレート、雪ミスト、サーモサイフォンの開発、バーク材の乾燥試験などを見学しました。工学系の学生と教員である訪問団メンバーは、実験室に入ると目を輝かせていました。
30年以上にわたって省エネ住宅についての研究に取組んできた建設システム工学科鎌田教授から、日本の木造住宅における省エネ技術について講義を受けました。鎌田教授がリーダとなって全国的に普及を進めるQ=1.0(キューワン)住宅は、暖房エネルギーを半分以下にしてCO2を削減し、地球温暖化防止にも貢献できる技術で、最新の厚い断熱材、3重ガラス窓、熱交換換気システム等を複合的に用いています。Q=1.0(キューワン)住宅では、太陽熱を多く取り入れるため南向きに大きな窓をつくりますが、この太陽光の熱量の取扱いについてロシア人学生から正反対の意見が出され、日露間で議論になりました。お互いの話をよく聞いてみると研究分野が異なることによる熱量の取扱いの違いや窓の小さい欧米の伝統的な住宅とは全く異なること等考え方の違いによるものであることがわかり、一同が納得しました。
ものづくり基盤センター・風間センター長からセンターの概要説明後、クレモクルー(技術補佐員で室蘭工業大学学生)の指導により、ものづくり実習を体験しました。女子学生は、トランジスタ回路を組み立てて「ゲルマニウム・ラジオ」づくり、男子学生は旋盤で「アクリル・コマ」つくりに取り組みました。ロシア人学生5名は、各人がその個性と才能を発揮し、Elenaさんは課題の「ゲルマニウム・ラジオ」を器用な半田付け作業であっという間に仕上げ、放送局の電波受信テストに成功すると、意欲的に次の課題「万能ミニアンプ」つくりに挑戦しました。指導に当たったクレモクルーの学生は、「僕より速い!」とその優秀さに驚いていました。また、Igor君は、旋盤で削った「アクリル・コマ」を紙ヤスリで丁寧に丁寧に仕上げていました。
講義の後、燃焼・溶融処理設備により環境にやさしい廃棄物焼却を行う「メルトタワー21」、びん・缶・ペットボトルのリサイクルを行う「西いぶりリサイクルセンター」を訪問しました。当センターの焼却設備では、ごみを熱分解処理し、ごみ自身が発生する熱も利用することで省エネ化をはかっています。熱処理で生成された熱分解ガスと熱分解カーボンは、燃焼溶融炉でさらに高温で燃焼することで有害物質を分解させる効果を持ち、ダイオキシンなどの発生を大幅に抑制することができます。また溶融に伴い排出されるスラグは土木建築資材として有効利用されています。
ウラジオストクでは、数年以内に焼却施設の建設とリサイクル開始の予定があるとのことで、この環境にやさしく省エネ・資源の有効利用をコンセプトとした室蘭の廃棄物処理の事例は参考になったようです。
この夜、訪問団は各研究室から夕食に招待されて交流を更に深めました。
建設システム工学科・鎌田教授と機械システム工学科・媚山教授の引率で日露学生交流参加者一行は、室蘭を出発し、高速で旭川へ。雪の美術館で昼食の後、北海道立林産試験場を訪問しました。北海道は、土地面積の71%が森林に覆われ、全国の森林面積のうち22%を占めるなど豊かな森林を擁する地域ですが、世界でも珍しいこの木材専門の大規模な研究機関では、単に木材加工だけでなく、豊かな森林資源から産出される木質系バイオマスを冬季暖房等の熱源として再利用するサーマルリサイクルや木質資源の無駄のないカスケード利用など、自然環境の継承・エネルギー問題へ取り組んでいるとの説明がありました。また、地域産業を活性化するための技術開発も行われており、極東工科大学内の木材加工センターにおいても同じように極東地域の林産業の活性化のため研究を行っているとのことです。
北海道立北方建築総合研究所を見学し、北海道の建築・まちづくりに関する総合的な研究機関の実験設備を見学すると共に、現在当研究所が推進する省エネルギー技術、自然換気、昼光利用及び氷・雪冷房など環境負荷低減技術の紹介がありました。
この日は旭川に宿泊しました。夕食後、日露学生は旭川の中心街を散策し、ホテルに戻ると引き続き日本人学生の部屋で遅くまでお話していたそうです。
日露青年交流一行は、旭川から沼田町生涯学習総合センターへ移動し、室蘭工業大学卒業生で媚山研究室出身の伊藤主任研究員から、年間降雪量10m、北海道の中でも特に雪の多い地域である沼田町で、長年地域及び住民にとってやっかいものであった雪を利用し、雪と共存するまちづくりについて講義を受けました。沼田町では、省エネルギーで環境にやさしい(CO2抑制)雪氷冷熱エネルギーを農作物の貯蔵施設に利用、雪冷房管理により花・野菜・しいたけなど新しい農作物の生産及び低温熟成という農作物に付加価値をつけた商品の開発・販売など、主要産業である農業の活性化に役立てています。講義のあと、講義会場である沼田町生涯学習総合センター&雪の科学館(雪冷房方式:冷水循環方式、自然対流式)、スノークールライスファクトリー(雪冷房方式:空気直接熱交換型)及びこれらに使用する雪の供給基地である雪山センターなどを見学しました。
12:45-15:15 講義及び見学「美唄市の利雪について」美唄市役所で産業振興課・金子幸江・主事から美唄市の取組についてお話を伺いました。石炭で栄えた町、美唄市は、「石炭から石油へ」政府のエネルギー政策転換の影響を受け、人口が大幅に減少した歴史を持つことから、化石エネルギーに依存せず、かつ、環境にやさしい雪冷熱エネルギーによる地域産業の振興に取り組んでいるとのことです。沼田町と同様、北海道の豪雪地域にあって、農業が基幹産業であることから農産物の貯蔵に技術を利用しています。講義のあと、JAびばい米穀雪零温貯蔵施設「雪蔵工房」(雪冷房方式:全空気循環式)、老人福祉施設ケアハウス・ハーモニー(雪冷房方式:全空気循環式)を見学しました。
これら沼田町及び美唄市の利雪エネルギー施設は、媚山教授が技術指導に関わっていることから、訪問団は、媚山教授の研究が実際に地域の生活に生かされていることを自分の目で確かめたことに感激していました。
日露青年交流参加者一行は、札幌駅近くのホテルに到着し、訪問団は日本人学生の案内でショッピングを楽しみました。明日は、もうお別れ。宿泊ホテル内でお別れ交流会を開催しました。日露の参加学生は、一人一人スピーチし、皆この日露青年交流事業に参加できたことは、とても有意義だったと語っていました。お別れ交流会終了後も日露学生同士は、夜のすすきの散策を楽しみ、ホテルに帰ってからも日本人学生の部屋に集まって夜通し語り明かしたそうです。
新潟経由で帰国するため、一行は札幌から新千歳空港へ移動しました。搭乗ゲートの前で日露の参加学生は、目をうるませながら別れを惜しんでいました。
当プログラム「北緯43度日露地方都市の工学系大学学生交流~人と自然が共存する環境づくりを目指して」は、工学系大学生の交流です。ロシア語やロシア文学を専攻しているわけでなく、アジア・日本文化専攻の学生でもなく、昨日まで互いの国について特に意識することもなかった日露の学生同士が、友達になってお互いの相手の国や考え方に興味を抱くようになったことは、素晴らしいことですし、このような交流こそ日露青年交流事業の目指すところなのではないでしょうか。
このような機会を与えて下さった日露青年交流センターに心より感謝申し上げます。
この相互派遣プログラムにより、室蘭工業大学の学生が極東工科大学を訪問し、学生の交流が一層深まり、彼らの交流がこれからも続くものであることを信じています。
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