ロシアというと「寒そう!」というイメージをお持ちの方が多いと思います。実際のところ日本の42倍もの広大な国土を誇るロシアには寒い場所ばかりでもありませんが、その点に関して私の赴任地であるヤクーツクという町は皆さんの期待を裏切りません。
さらに踏み込んで言えば、ただでさえ寒いというイメージがあるロシアの中でも最も寒い場所の1つとさえ言えるでしょう。
しかし、この町にはその過酷な寒さに負けないくらいの情熱を持って日本語を勉強している学生達がいます。そんな町ヤクーツクについて、また現地での日本語教育についてご紹介します。
ヤクーツクは北東シベリアに位置する町で、日本を基準にして考えると長崎の対馬からほぼ真北に3000kmほどのところにあります。人口約30万人とそれほど規模の大きな町ではありませんが、実はある基準においては「世界一人口の多い町」の称号を持っています。
その基準とは「永久凍土に立つ町の中で」です。冒頭でも述べましたように本当に寒い町で、市の全域が永久凍土の上に立っているのです。冬には最低気温がマイナス50℃に達することもあります。かといって夏はとても涼しいかというとそういう訳でもなく最高気温は30℃を超えますので、住民は気温差80℃の世界を生きているということになりますね。
さてヤクーツクはサハ共和国の首都という別の側面も持っています。
「共和国」や「首都」なんていうと、まるで独立国のように聞こえますがそうではありません。
サハ共和国とはロシアの少数民族であるサハ人による民族自治区の名称で、れっきとしたロシア連邦の一行政区です。
そしてヤクーツクはその民族自治区の中心都市という訳ですね。
ここからは少し話を広げてこのサハ共和国についても少し紹介したいと思います。
急にサハ共和国なんていってもほとんどの方には全く馴染みがないことかと思いますので、少しでも親しみを持ってもらえるよう、いくつかのことをご紹介したいと思います。
まずご紹介したいのは、サハ共和国はマンモスのふるさとであるということです。
永久凍土で覆われたサハ共和国では、地中から古代のマンモスが冷凍された状態で発見されます。
2005年に日本で開催された万博のロシア館で展示されて話題を集めたマンモスの冷凍標本も、ここサハ共和国で見つかったものです。
2つ目はサハ共和国ではダイヤモンドの採掘が盛んで、世界で産出されるダイヤモンドの5分の1を占めているということです。お持ちのアクセサリーももしかするとサハ共和国が原産かもしれませんよ。
そして最後に、「結局またその話か」と思われるかもしれませんが、サハ共和国には観測史上地球で最も寒い地点があります。それはオイミャコンという村で、正確性に関して議論はあるもののマイナス71.2℃を記録しています。高校の地理で習ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は本当の本当に一番寒い地点は南極大陸にあるそうですが、そこはご容赦ください。
ヤクーツクで日本語を勉強できる場所は2つしかなく、1つは筆者の勤めている北東連邦大学というサハ共和国内唯一の総合大学です。
前身も含めると大学自体の創立は1934年ですが、日本語を専門的に学べるコースが設置されたのは2000年です。
日本人教師は筆者1名のみで、現地人教師4名と合わせ計5名の日本語教師が働いています。学習者数は合計で90名ほどです。毎年北海道大学、新潟大学、山形大学、そして札幌大学に数名ずつの学生が留学します。
またこれらの大学からも日本人学生が留学に訪れ、学生達にとっては日本人と交流する貴重な機会となっています。
そしてもう1つは民間の語学学校で、北東連邦大学で日本語を専攻した卒業生が開いたものです。
ここで主に教鞭をとっているのは北東連邦大学の大学院で日本語を専攻している学生達で、彼らにとっては大学で学んだ知識を存分に活かすことのできる素晴らしいアルバイトのようです。
生徒数は正確には分かりませんが、主な学習層は中高生で、社会人も数名いるようです。
その他ヤクーツクでは日本に関心を持った有志の集まりである「日本クラブ」なるものが活動しているのですが、筆者はそのメンバーに向けても毎週初級日本語の授業を行っています。
下は高校生から上は社会人まで層は広く、毎週10~20名ほどが集まって熱心に日本語を勉強しています。
誰でも参加はできますが、授業自体は大学の教室を借りて行っています。
ちなみに日本語を学習する動機は多くの場合「アニメが好きだから!」というもので、いまいち真剣さに欠ける動機だとする向きもあるかもしれませんが、厳しい冬が長く続くここヤクーツクでは、外出せずに楽しめる娯楽としてのアニメの存在感は圧倒的なものがあり、その分日本語学習に向けられる情熱も時として目を見張るものがあります。
日本の蒸し暑い夏に飽き飽きした、そんな時には日本の遙か北にある極寒の地に思いを馳せてみてください、そしてそんな極寒の地にも日本に強い関心を持って日本語を勉強している人達がいるということを心の片隅に留めておいていただけると幸いです。
永久凍土より愛をこめて。
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