松本 拓
私は2004年7月より、日露青年交流センター若手研究者派遣プログラムのフェローとして、ハバロフスク州立郷土史博物館考古学部門にて研究を行っています。研究テーマは、極東ロシアにおける物質文化について文化人類学的、考古学的に調査することであり、その中でも特に鉄器時代(日本の弥生時代頃)、新石器時代(日本の縄文時代頃)について夏期の発掘調査と、冬期の資料調査を行うことを目的としています。
● ハバロフスクについてハバロフスク市は人口約60万人の極東の中心都市であり、ロシア人の他にシベリア少数民族(ナーナイなど)、朝鮮民族、中国人などが多数居住しています。ハバロフスクに在留する日本人は約80人と決して多くはありませんが、日本人会などの相互扶助組織やハバロフスク日本国総領事館があり、日本人の在留に関しては良好な地域であるといえます。また、ハバロフスクにおける日本人、日本語に対する関心は高く、各大学、研究所には日本語コースが設置されている所が多く、日本に関する知識、理解が比較的進んでいる地域です。
現在私が所属しているハバロフスク州立郷土史博物館はハバロフスク市街の中心地に位置し、民族部門、歴史部門、考古学部門、自然科学部門など様々な部門を持つ総合博物館です。考古学部門は郷土史博物館の近くに考古学博物館を有し、規模はそれほど大きくありませんが、考古学部門学芸員を中心に、精力的に調査研究を行っています。
ノボトロエツコエ村はアムール河の沿岸に位置する人口2000人程度の村で、ダーチャ(別荘)群が立ち並ぶ地域です。この一帯には新石器から鉄器時代にかけての遺跡が多数点在しており、ノボトロエツコエ12遺跡は村から4km程度離れた河岸段丘の中腹に位置します。
今回の発掘調査により、この遺跡からはポリツェ文化と呼ばれる鉄器時代文化の遺構と、その下層から新石器時代後期の住居址が確認され、新石器時代、鉄器時代の土器、石器が多数出土しています。
ロシア、日本両国の間には、考古学の学問的歴史の違いや、考古学を取り巻く環境の違いに起因して、考古学の発掘方法に様々な違いがあります。特に今回は大規模な住居址の発掘となったため、住居址の調査方法、報告方法の違いを理解し、双方にとって過不足のない調査方法を模索する必要がありました。この中でのロシア人研究者とのディスカッションは、お互いの立場の違いや目指す研究方針などについて深く話し合うことができ、本当の意味での相互理解が深まったと確信しています。
また、試掘においてはノボトロエツコエ村周辺で新たに大規模な鉄器時代の遺跡を発見し、来年度以降本格的な調査を行う予定です。
現在はハバロフスク市街近辺、博物館までは徒歩30分程度の場所にアパートを借りており、昼間は博物館での作業、夜は自宅でのデータ整理と、かなり忙しく、充実した毎日を過ごしています。
調査機材等10キロ程度の荷物を持って、毎日自宅と博物館を往復していますが、ハバロフスクはアップダウンの激しい地形のため、毎日往復1時間弱の道のりは、なかなかよい運動となっています。寒さが厳しく、雪の多い12月、1月などは凍結した路面に足を滑らせ、時には転びながら通勤しています。
自宅アパートはいわゆる一般的なロシア人用のアパートを借りました。そのため、玄関の外に2戸が共有するもうひとつの玄関があり、隣人とは隣の家というよりは、隣の部屋といった感じになっています。隣人は一般的なロシア人家庭(父、母、娘、息子の4人家族)であり、電話を貸したり、ロシア料理をご馳走になったりと、さながら一昔前の日本のお隣さんと同じような家族ぐるみの付き合いをしています。ロシア人は他人行儀を嫌う、とは聞いていたのですが、図らずもロシアに家族ができたような感じです。
特に隣人の娘と息子は年齢が近いこともあり、親しく交流しています。彼らとチャイ(お茶)を飲みながら、お互いの文化や習慣について話をすることが、私のロシア語の学習やロシア文化の理解に役立っています。
今回の若手研究者派遣プログラムによる滞在期間も残り3ヶ月あまりとなりました。ここまでトラブルもなく順調に調査が遂行できたのも、日露青年交流センターおよびハバロフスク総領事館のご支援、そして、ハバロフスク州立博物館のスタッフや隣人のご助力のおかげだと感謝しています。
若手研究者派遣プログラムに参加できたことにより、これまで以上に、長期的な調査研究を実施することができました。ロシア人研究者と双方の考えや目的について話し合い、資料を前にして意見交換する十分な時間を得たこと、調査だけでなく、約1年間を通じて彼らと生活をともにできたことは、学問という枠を越えて、本当の意味での相互理解が深まったと考えています。また、研究者だけでなく、一般のロシア人の方々と様々に交流し、学問の枠を越えて広くロシアについて理解できたことも、長期滞在による成果だと考えています。
今回の経験が今後の私の研究人生、そしてロシア人研究者との共同調査において非常に貴重なものになると確信しています。
日露青年交流センター Japan Russia Youth Exchange Center
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