-滞在記- 若手研究者等フェローシップ( 2016 年度)

平尾功二

1月の休暇中にワシレオーストロフスキー地区裁判所の法廷傍聴を続けておりましたが、少し視点を変えて、ロシア連邦最高裁の法廷傍聴をするため、2月14日、15日にモスクワに行ってきました。

朝5時30分ペテルブルグ発のサプサン号に乗り、9時過ぎ頃にモスクワに着きました。モスクワの渋滞の具合がわからなかったので、地下鉄を乗り継いで最高裁まで行き10時過ぎ頃到着しました。

ロシア連邦憲法は123条において、原則としてすべての裁判の審理を公開とし、例外として連邦法で定める場合に非公開の審理の傍聴を許す旨定めております。

連邦最高裁のホームページにも審理は公開と書かれておりましたが、一抹の不安がありました。連邦最高裁のホームページには、建物への通行についてはパスポートなどをチェックした後、申込書に最高裁判事らがサインして認められる旨書かれており、事実上、入れないのではないかと思ったのです。

連邦最高裁に到着して、受付で「傍聴したい」旨告げると、パスポートの情報をパソコンに読み取って確認した後、少し待ってくださいと言われました。その後、職員が慌ただしく出たり入ったりを繰り返し、小一時間ぐらいして「非常に残念なのですが…、傍聴は簡単ではありません」「ロシア人についてはすぐに認められるけれども貴方は外国人なので、大使館か領事館のスタンプのある書類がなければだめなのです」と告げられました。直感的に「あ、これはもうむずかしいかな」と思いましたが、せっかくペテルブルグから4時間もかけてきているので、「どんな書類が必要ですか?」と聞くと、「貴方の申請を大使館が証明するもの」というような回答でした。あとでもめても困るので、一応「雛形を書いてください」とお願いし、なんとか雛形を書いていただくことができました。タイトルは「официальное уведомление」と書かれていました。

このような趣旨の不明な文書を交付してもらうのは難しいだろうなと思ったのですが、日本大使館で「日露青年交流センターのフェローシップできている者なのですが…」と事情を説明したところ、とても速やかに文書を作成していただけました。いただいた文書を持って連邦最高裁に戻ったところ、またしばらく職員が出たり入ったりを繰り返し、最終的に上司の職員が出てこられ、「我が国の法律は外国人の傍聴を禁止するものではないです」と仰られ、傍聴が可能となりました。

ロシア連邦最高裁判所入口

当日、午前9時半から多くの審理が予定されており、前の期日の審理が長引いていたため、予定時間を大きく遅れていたようで2件の審理を傍聴することができました。私の連邦最高裁への建物の出入りには常に職員の方が厳重に付き添っていました。お話によると「外国人が傍聴をするのは稀です」とのことでした。なお、日本の最高裁の審理の傍聴は自由です。3名の裁判官による合議体で、民事事件の破棄審の審理でした。

一件は不服申立人の代理人が出頭し、破棄の理由を説明し、裁判所がそれに対してあれこれ質問するなどしていました。もう一件は銀行が破棄審における不服申立をした事件で、一審が銀行勝訴、二審で敗訴した事案(相手は本人訴訟で、本人さんも堂々と反論していました)でした。この事件でも不服申立人の代理人が主張し、図面を示すなどして主張していました。いずれの事件も第一回のようで、即日結審し、審議室に裁判官が退廷して30分ほど審議の後、決定がなされていましたが、実質的な審理が行われているのが印象的でした。

日本の最高裁の審理は、事前に15年ほどの実務経験を有する裁判官である最高裁調査官が記録を調査して報告書を作成し、ほとんどの事件がその調査官の段階で結論は決まってしまい、当事者が主張をする弁論期日を開くことは極めて稀です。

連邦最高裁においては、不服申立人の主張を聞き、裁判官が実質的に審理していたので、日本の最高裁と大きく性格が異なるという印象をうけました。

もちろん、日本には憲法裁判所はなく、最高裁が違憲審査権を有しているので性格が異なるのは当然ですが、確定した第一審判決を審理する破棄審において、裁判官が実質的に審理をなしているというのはやはり大きな違いかと思います。

なお、日本の最高裁判事の定員は15名ですが、ロシア連邦最高裁判事の定員はロシア仲裁最高裁判所との合併後、170人とのことですのでやはり構造的な違いは大きいかと思います。

日露青年交流センター Japan Russia Youth Exchange Center
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