日露青年招聘・派遣事業

第3回日露青年チェス・将棋交流の実施報告

将棋を世界に広める会 理事 北 昌宏
東京プログラム報告:慶応大学 水留 啓
京都プログラム報告:京都大学 高橋 英晃

日露青年交流事業として2017年3月22日から3月30日まで、東京地区、関西地区にて、日露学生によるチェス・将棋の相互交流プログラムが実施しました。プログラム中、将棋およびチェスの競技が4日間開催され(宇都宮杯)、日露のチームで対戦した結果、42対37、1引き分けでロシアが勝利しました。

1日目 3月24日(金):将棋の第一回対局および都内視察

●将棋会館(東京都渋谷区)にて日本チーム対ロシアチームの将棋対局

前日に東京に到着したロシアチーム一団を将棋の対局で出迎える形になりました。対局は将棋の総本山である東京・将棋会館の一室を借り切って行われ、このために本格的な木の将棋盤と駒が用意されました。午前中に行われた第1回戦では大方の予想通り日本人選手の勝利が相次ぎましたが、そんな中モスクワ市の将棋チャンピオンであるAndranik Artenian氏が東京大学将棋部に所属する岡田涼太郎氏を破る活躍を見せ、ロシア側に貴重な1勝を与えました。将棋の内容は三間飛車のような振り飛車から相矢倉のガッチリした組み合いまでさまざまで、ロシアチームの事前研究の深さが窺われました。

中村六段との多面指し  昼食をはさみ午後に行われた第2回戦では日本チームの10勝0敗となり今度は日本チームの威信を見せた格好となりました。公式記録のつく10戦以外にも両国の学生同士の自由対局や、青野九段、中村六段ら日本将棋連盟所属のプロ棋士による将棋の指導対局も随時行われ、真剣勝負の傍らの憩いの場となっていました。


ロシアチームの将棋を見る限り、定跡と呼ばれるセオリーと、各自が臨機応変に考えたオリジナルの手とがうまく混ざりあった魅力的な将棋を指しており、普段定跡にとらわれた将棋を指しがちな日本人選手にとってもいい刺激になったように思います。

また、この日は午前10時からの10数分の時間を利用し、将棋連盟のご厚意のもと、プロ公式戦の見学も行われました。当日は各種メディアに引っ張りだこの加藤一二三九段が対局されており、その真剣な表情と対局姿にロシアの学生も興味津々の様子でした。また、加藤先生が手を指すところを実際に見られたのは日本人学生にとっても大変貴重な経験になりました。

 取材を受ける参加者 なお、この日と翌日のチェスの対局ではNHKの将棋フォーカスに取材をしていただき、実際に4月23日の番組の冒頭で対局の模様が放映されました。放送では将棋が面白いゲームだとの趣旨のロシア学生のコメントが流されました。


●都内視察(明治神宮)

午後は明治神宮をめぐります。境内のな雰囲気に、参加者は一様に荘厳な気分を味わっていました。各自数名ごとのグループを組み、将棋で疲れた頭をリフレッシュしつつ身の上話をする中で、お互いがどのような境遇にあり、普段どのようなことをしているのかなど個人的な距離感を縮めることができました。また、お供え物や手水舎など日本の寺社独自の風習も興味をもって知ってもらうことができ、この点でも日本とロシアの交流として意義深いものになったようです。特におみくじは人気でした。

2日目 3月25日(土):チェス第一回対局・都内視察・レセプション

●浜町会館(東京都中央区)にてチェス対局

チェスの対局には慶應義塾大学チェス部から3名の新規参加者があり、対局を盛り上げてくれました。午前の第1回戦ではロシアチームから見て10勝0敗の一方的な結果となりましたが、午後の第2回戦ではチェス部所属の勝田裕貴氏がMikhailova Liubov氏を制し、貴重な1勝を上げました。これで東京ラウンドでの将棋・チェスを合わせたスコアが20勝20敗という結果になりました。


本バイアスロンの目的に日本チームがチェスを学び、ロシアチームが将棋を学ぶという構図があることはどうしても否めませんが、それでもそれぞれの国が苦手な方のゲームでもう少し奮闘することが、今後の本イベントの成功のための課題と感じました。

 休憩時間中も、絶えず行われるチェス交流

またこの日は有志の方のご協力により折り紙教室と書道教室も開催されました。折り紙は1枚の紙から様々な形を生み出す技術だけでなく、紙の美しさ、柄の彩りなどもロシア人の興味を引くものだったようです。また、書道では当然、漢字を含めた日本語が用いられるのですが、独特な書体(勘亭流の歌舞伎文字)で書かれた漢字にエキゾチックな要素を見つけ出してもらえたのではないかと思います。ロシアの学生たちは自分のファーストネームを漢字で表記してもらった紙を大切に持ち帰っていました。

●江戸東京博物館(東京都墨田区)見学

チェス対局の後は博物館にて江戸の文化に触れました。今回のプログラムにはロシア語しか話せない参加者も何人いました。そうした場合チェスや将棋があれば言葉を使わずに盤上でコミュニケーションが取れるのですが、展示物の説明となるとそうとも行きません。スマートフォンの自動翻訳や館内に一部あるロシア語表記の解説などを駆使したものの、やはり国境を超えた交流には完璧でないにせよある程度は語学的な努力、相手の言語を最低限度理解しようとする労力が必要なのだと痛感させられました。

●ホテル(東京都目黒区)でのレセプション

2日目のプログラムを終えた一行はホテルに戻ってレセプションを開いていただきま した。この中では各メンバーの紹介や歓談の時間を多く取っていただき、改めてお互いの親交を深めるいい機会になりました。また、先日紫綬褒章を受賞した佐藤康光・日本将棋連盟会長をはじめとして、チェス日本ランキング3位の青嶋未来五段など名だたる将棋のプロ棋士の先生方にも来ていただき日本メンバーにとっても忘れられない夜となりました。

3日目 3月26日(日):目黒区民センターにて駒作り体験

東京でのプログラム最終日となるこの日は、「将棋駒研究会」の皆さまのご厚意により、将棋駒を自分の手でつくるという貴重な経験をさせていただきました。研究会会長の北田義之様をはじめ名だたる駒師の方々にご指導いただきつつ、なんとかそれぞれの「彫り駒」(木地に字母紙と呼ばれる下書きを貼り、印刀で彫り出した駒)を完成させることができました。体験の最後にはおみやげとして全参加者に駒の根付(キーホルダー)をいただき、皆喜んでいました。

 駒将棋研究会の皆さまと

ロシアにおいてもこうした日本の伝統文化の存在が知られるいい機会になったのではないかと思います。将棋駒研究会の皆さまにはこの場を借りて改めてお礼申し上げます。

この後ロシアチーム一行は新幹線にて京都に向かいました。

4日目 3月27日(月):学生将棋選手権参加(第二回将棋対局)・大阪城視察 

●学生将棋選手権

学生将棋選手権に参加するため、京都から大阪商業大学へ移動しました。ロシア人参加者たちは大会の参加人数の多さ、会場の熱気に驚いたようです。

大会では、ロシア人10名強が2 勝通過2 敗失格の予選を戦いました。惜しくも予選突破者は出なかったものの、全体で3勝が挙がりました。感想戦や移動のバス内、ホテルで対局を見せてもらったところ、いちばん強い選手で二、三段の実力はあるように思われました。

大会後、ロシア人参加者は2グループに分かれ、半分は大阪商業大学のアミューズメント産業研究所に向かい、残りの半分は日本人学生とチェス交流を行いました。

アミューズメント産業研究所では、研究員の高橋浩徳様から日本の古い将棋やトランプ、花札等、貴重な資料の紹介があり、ロシア青年は色彩豊かな日本古来のゲームを興味深そうに眺め、どのように遊ぶのか説明を求めていました。

●大阪城見学

私はWoman International Master の女性といっしょに城内を回りました。いろいろの展示物の意匠が何を象徴しているかといった事がらをよく尋ねられたように思います。帰洛後、プライベートの時間帯に南禅寺(将棋史上有名な「南禅寺の決戦」が行われた南禅院や疎水周辺の林などを巡った)や平安神宮を案内し、彼らの部屋でペアチェス(2 人ずつチームになりひとつの盤で交互に指す)を楽しみました。

5日目 3月28日(火) 京都市内視察・第二回チェス対局・表彰式

午前はホテル周辺を見学。私のグループは南禅寺から哲学の道を北上し、午後の会場の楽友会館まで歩きました。南禅寺では三門を見学し、哲学の道では野良猫と戯れたり、土産もの屋をいくらか案内することができました。

●第二回チェス対局

楽友会館にてチェスの対局。京都側の選手が1 勝を挙げました。ロシア側の選手には先述のWIM の女性や私の対戦相手のFIDE Master などがおり、技術的に高い水準の検討を行うことができました。また対局者以外にも交流プログラムの存在を知ったチェス好きの子どもなどが多数来ており、空き時間に自由交流を楽しんでいました。


●表彰式

対局後、会館のレストランにて表彰会。東京および関西地区での、全4回の競技(宇都宮杯)の日露の勝ち点を比較したところロシア側が上回ったため、宇都宮杯はロシア選手団の引率者であるShinelnikov 氏に授与されました。

 宇都宮杯を受け取るシネリニコフ氏  絶え間なく行われるチェス交流

開会にあたりShinelnikov 氏に挨拶をお願いしたところ、急な依頼にも関わらず、ロシア全土における将棋文化の発展の歴史をチェス文化との比較において解説していただけました。氏のように圧倒的な博識と語学力を持ち合わせた人材が将棋文化に関心を寄せておられることは幸運でした。会では、東京のPineauさんからチェスの大盤を譲り受けていたため、引き続きチェスの検討に大いに活用させていただきました。

以上のような流れで、主たるプログラムが開催されました。

今回のバイアスロンにおいては、まずは日本とロシアの若者の間の将棋やチェスを通じたコミュニケーションが大きな意義として挙げられます。日本文化としての将棋がロシアにおいてどの程度浸透しているのかは非常に興味がありましたが、今回の対局を通じて、また駒製作の会場でさえも相手を見つけては対戦を挑むロシア人学生の姿を見るに至って、このような普及活動が有意義なものであることが確信できました。

また、今回のイベントでは視察、そして各種の懇談を通じ日本とロシアの若者の間で個人レベルでの親交ができたことも大きなことと思います。実際、今回のメンバーの何人かとはロシア帰国後も各種SNSを駆使したやりとりが続いているようです。言葉の壁や距離的な障壁などはあるものの、日本とロシアの間にはまだまださまざまな交流の可能性があることを実感できたイベントとなりました。

第3回大会は、ロシア側参加23名と、大人数になったため準備が大変でしたが、駒の製作体験、折り紙体験、書道体験もプログラムに含める事が出来て、日本伝統文化の体験という面でも、非常に成果が上がったと思われます。

また、日露の青年達が、真剣にかつ友好的にチェス・将棋を競技する姿勢は、印象的でした。特に将棋に関しては、レベルが大幅に向上していると感じました。日本側もチェスの実力を向上させることが必要と感じました。

東京、京都視察を通じて、ロシアの青年たちが日本伝統の文化(食文化も含め)に触れられたこと、視察に同行した、日本の学生達と英語で親しくコミュ二ケーションがはかれたことは、非常に意義があったと思われます。

 森内永世名人とのチェス交流 プログラム期間中は、将棋連盟の佐藤康光会長、森内永世名人、青野九段、中村六段をはじめとする日本将棋連盟の棋士の皆様にも多数参加頂きました。また、日本将棋連盟、東京都支部連合会、勘亭流榮木照明様、将棋駒研究会、ロシア将棋協会、外務省、世界将棋同好会、大阪商業大学、アミューズメント産業研究所、日本将棋連盟関西本部、京都大学数理解析研究所の山下剛様、楽友会館レストランのマネージャーおよびシェフの皆さまには大変お世話になりました。NHKでも取り上げて頂き、将棋連盟、浜町会館でのプログラムの模様が全国放映されました。この場を借りてお礼申し上げます。


最後に、当会としましては、今後、第4回、チェス・将棋交流会を継続して行くことが、重要な課題ですので、関係各位殿の一層のご支援を宜しくお願い致します。